10.「男女平等」って本当?(vol.1)
日本の「男女平等」、元気ですか?
昭和49年生まれの私が、「男女平等」を願うようになった理由は、子ども時代に聞いた「誰のおかげで食わせてもらっているんだ!」という言葉が根底にあります。女たるもの、親が決めた人と結婚したり、寿退社で仕事を辞めたら家庭に入り、子どもを産んで家を守るのが当たり前だったあの時代では、そのような場面がテレビのドラマだけではなく、リアルな日常生活の一部にもありました。
家庭内の男女の力関係を象徴するそのような言葉に、「大きくなったらそんなことをいわれないように私も働こう、子どもを産んでも働き続けよう」と心に誓ったのは私だけ?と思っていたら、同じような理由で自分のキャリアを大事にしてきた同世代女性は多いようです。
Kiki Kolenbet / Visit Finland
バブル時代に経済力を持った独身女性の豪遊ぶりを見聞し、バブルがはじけた頃に就職氷河期を経験し、男性と肩を並べて総合職にも挑戦し、晩婚化、高齢出産などの時代の流れにも乗ってきた世代としては、そのような子ども時代の記憶はもう遠い過去のように感じます。しかし、今働き盛りの若い日本人女性からも同様の体験談を聞くと、ふり切ったとばかりに思っていた暗い影が背中に張りつくような、暗たんたる想いにかられます。
その一方で、私が結婚を考え始めた十数年前でも「結婚するなら妻にも働いてもらわないと」という日本人男性の声は聞こえ始めていました。「家族を養うためだけに自分だけ働くのは嫌だ」という、オープンな本音も。
さらに共働きの新婚の男性に、「今は夫婦で平等に仕事人生を全うすることができているけど、この先転勤があると、妻にも引っ越しや転職を強いてしまうことになる。フィンランドではこういう時どうするの?」と相談を受けたこともあります。このように男女平等を願っているのは女性だけでは無いのですが、今の日本では男女平等はどのような方向に進んでいるのでしょうか。日本人の皆さん、お元気ですか?
ランキングから見るフィンランドの「男女平等」
世界経済フォーラム(WEF)が2020年に公表した2019年版「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index)」のランキングによると、フィンランドは世界153カ国中で男女の性格差が少ない3位の国です。
Global Gender Gap Report 2020 by World Economic Forum http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf
ちなみに少しさかのぼってみてみますと、
2015年の1位はアイスランド、2位にノルウェー、3位がフィンランドで4位はスウェーデン、
2016年の1位はアイスランド、2位がフィンランド、3位はノルウェーで4位にスウェーデン、
2017年の1位もアイスランド、2位にノルウェー、3位がフィンランド、
2018年の1位はアイスランド、2位にノルウェー、3位がスウェーデンで4位がフィンランドと、
デンマーク以外の北欧4カ国が上位を占めています。このランキングは、「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成されているのですが、日本は121位と過去最低の順位、G7の中も最下位についてしまいました。
日本とフィンランドだけ比較してみると、男女間の「健康」に関しては特に差はないものの、「教育」格差の小ささに関してはフィンランドが1位、日本は91位、「経済」では、フィンランドは18位、日本が115位、「政治」においては、フィンランドは5位、日本は144位と大きく差をつけられています。圧倒されますね。
フィンランドのサンナ・マリン首相 Laura Kotila / valtioneuvoston kanslia
でも本当に「男女平等」なの?
フィンランドの国会における女性議員の割合は47%、2019年に34歳で世界最年少の女性として就任したフィンランドのサンナ・マリン首相が発足した内閣でも、19人のうち10人が女性と過半数を占めています。その活躍の様子は日々、テレビや主要メディアでも目に入るので、女性が自分たちの性別を代表する声が届いている実感は得られやすい状況だと思います。
私がノキア・ジャパンに勤め、辞めてからフィランドに移住した頃は、2000年に初の女性大統領であるタルヤ・ハロネンが活躍しており、わずか3か月でしたが初の女性首相であるアンネリ・ヤーテンマキと合わせて国政のトップがダブル女性だった時期もあったため、フィンランドは「男女平等の国」というよりも「女性が強い国」というイメージでした。
イメージはさておき、実際のフィンランドの様子を見てみると、女性の就職率は7割以上と高いものの、女性管理職の割合は32%※とそう高くはありません。フィンランド人のノキアの駐在員妻が、就労ビザが無いため日本で初めて、目を白黒させながら興味津々で「主婦」を体験している様子には目を見張りましたが、出張でフィンランドの本社に行くと、出会う秘書やアシスタントが全て女性なのは腑に落ちませんでした。
すべてを手にいれることはできない
フィンランド人の元夫と結婚したころ、日本に遊びに来ていたフィンランド人女性とお話する機会があったので「フィンランドには女性管理職はいないの?」と思わずためていた疑問をぶつけてしまいました。当時フィンランド国営放送でアシスタント職に就いていた彼女は「あら私の上司は女性だけど、とても働きやすいわよ」と、少し驚いたような表情を見せました。
そこで「あなたは出世したくないの?」と聞いたら「子どもを育てながら働くので、定時で帰れる仕事がいいのよ」ということでした。しかし彼女の夫は重役だったので「同じぐらいバリバリに働けないのはアンフェアじゃない?」と聞いたら、彼女からは「You can´t have them all (すべてを手に入れることはできないわ)」と、自分に言い聞かせるような、落ち着いたトーンの答えが返ってきました。
Front Desk / Visit Finland
このように私が20代の終わりぐらいまで男女平等の国に対して募らせてきた憧れは、「出産」という決して男女が平等に体験することができない生物学的な現象を伴って、少し現実味を帯びてきました。
ジェントルマンがいない?
2004年から暮らし始めたフィンランドで、まず気が付いたのはレディーファーストが無いことです。特別なパーティーや格式あるレストランなどで、男性がドアを開けてくれたり椅子を引いてエスコートしてくれたりすることがあっても、街中を歩いている限りでは女性よりもどちらかというとベビーカーに気を配る男性の方が多いのです。
また、女性に花束を買ってプレゼントすることを恥じらい、ダンスやオペラなど女性が好きそうな文化イベントに出かけるのを嫌がる男性もいて。「BBQにサラダなど不要だ!」といい張るマッチョな男性もいることに驚き、フィンランド人男性はなんとなく、「ジェントルマン」ではない、気がしてきました。そのことを近所のフィンランド人女性にぶつけたら「この国にジェントルマンなんていないわよ!」と大笑いされてしまいました。
え……それってどういうこと?
※フィンランド・ビジネス政策フォーラム(EVA)2019年1月6日『ガラスの天井パラドックス』より
To be continued...
(次号の配信は2月17日水曜日です)
靴家さちこ:(くつけさちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。
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