11. 「男女平等」って本当?(vol.2)

ジェントルマンがいない「男女平等」の国フィンランドでは、女性でも雪かきや芝生刈りなどの力仕事が期待されるのか、住んで間もなく元夫に「なぜ僕ばかり!」と不満をぶつけられました。そこでよそのお宅の家事の様子を観察するようになりましたが、やはり汗を流す家事は男性が多く、「夫はソーセージと卵しか焼けないので料理は私」という女性にも出会いました。フィンランドって本当に「男女平等」な国なのでしょうか?
靴家さちこ
2021.02.17
誰でも

(c) Natura Viva
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家事も男女平等に?

 フィンランド人の元夫は、力仕事のみならず料理や洗濯や掃除など、家の中のこともやってくれたのですが、私とやり方が違うと持論を譲らず、どの分野でも対等­?な姿を崩しませんでした。フィンランドではこうするべき、ああするべきだと、掃除道具の置き場所を直されたり、フライパンの使い方や洗い方にも彼流が押しつけられたり。私は無意識に「女性の領域」と感じていた分野で思いがけず強気に出られたことに驚きましたが、この経験は私に新しい視点を与えてくれました。

 それは当時日本で話題になり始めた「家事育児を一人で回している妻を手伝おうとしたら、ダメ出しされてしょげる夫」の気持ち。女性である私がそちら側に回るのは妙な気分でしたが、二人の大人が一つの家を切り盛りしようというのに、一人のやり方が正しいと強いられ、納得いかないまま相手のやり方に合わせようとすると上手くできずに怒られる。それでは辛い、平等ではないじゃないの、と。

(c) Helsinki Marketing  
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 そんな時、折よくフィンランド人家族に取材する機会があったので、その夫妻に「家事は男女平等にやってる?」と聞くと、「性別にとらわれず、できる人がやればいい」という、合理的な答えが返ってきました。また他の取材では、家事を積極的にやってくれない夫には、「あなたもやってよ」と不満をぶつけたり、命令するよりは「一緒にやらない?」と誘う方が効果的だという話も聞きました。

 他にも「お料理が苦手だから、夫が得意で良かったわ!」と幸せそうに語る女性、同じお料理好きの夫でも「台所が汚れて片付けが大変」と愚痴をこぼす女性もいて。「この家のボスは私だから掃除は夫がするのよ!」と豪語する女性や、「細かいことは夫に任せられない」といって、伝統的な役割が手放せない女性や、夫の靴下の脱ぎっぱなしや、甘い育児にメラメラ不満を募らせる女性たちもいて。結局どの国に住もうが、家庭内の男女平等は夫婦二人で話し合って作り上げてゆくものだと思うようになりました。

父親の育児参加は?

 育児となると、フィンランド人夫はおむつ交換やお散歩、本の読み聞かせや寝かしつけなど、「母乳を出す以外できないことはない」というぐらい、家庭内の育児参加に積極的と、概ね満足な人が多いようです。

 元夫もとても意欲的に取り組んでくれましたが、それでも長男が赤ちゃんだった2000年代初頭では、平日の午前中にケラヴァの街中でベビーカーを押して歩いているのはほとんど女性でしたし、公園に行っても集まってくるのはママばかり。近所で唯一、長い育休を取って3人の子連れで歩き回っている男性の姿が目立って、有名なぐらいでした。

 ヘルシンキの公園を観察してみるとパパ率が高く、子連れでスーパーで買い出しもする男性が多く目撃されるなど、都会の方が「男女平等」が進んでいるようです。私が住んでいた郊外では、保育園の送迎も学校の保護者会に積極的に足を運ぶのも母親が多数でした。

(c) Helsinki Marketing  
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「イクメン」はいないのか?

 日本で「イクメン」という言葉が流行りだした2013年に、ミッコ・コイヴマー元駐日フィンランド大使館参事官が、「フィンランドでは男性も育児をするのが普通なので『イクメン』という言葉がない」と、日本のメディアに発信していたのをご存知ですか?私もその頃、フィンランド人男性の育児参加について記事を書くために、さらにあちこちの公園や保育園で、その姿を追っていました。

 それでもやっぱり平日午前中に公園に姿を現すのは、断然女性の方。その理由を調べてみると、フィンランドは父親休暇の取得率が8割以上と高いことでも知られているのですが、最長で9カ月取れるのにその大半は3週間程度の取得と、取得期間が短いという課題があるようなのです。

そのわずかな賃金格差が……

 せっかく休暇があるのに取り切らないフィンランド人男性たちは、どういうつもりなのか?私がある日、また近所の公園にやってきたフィンランド人の赤ちゃん連れの女性にこの問いをぶつけると、彼女は、フィンランドでは男女間の平均賃金格差が20%あることを指摘しました。「この子のパパが休んでくれてもいいけど、給料が高い方が働き続けた方が得じゃない?」と。

 その時初めて、フィンランド人女性にフィンランドの男女平等についてたずねると「他と比べるといい状況だと思うわ」と、だいたい満足そうな顔をするのに「でもね、男たちの1ユーロは私たちの80セントなのよ」と怖い顔をして語るのか、よりハッキリとわかりました。たかが20セントでも、低い方が長い育児休暇を取ってキャリアを中断するという現実。フィンランドでさえこれなのですから、賃金格差が50%もある日本の女性たちはもっと怒ってもいいのかもしれません。

(c) Visit Finland  
(c) Visit Finland  

フィンランド流「男女平等」の作り方

 このように、フィンランドの男女平等にもいびつなところもあり、完璧な理想郷ではありません。賃金格差が生まれる背景も、男性には給料が高い力仕事や理系の技術職が多く、女性にはヘルスケア、幼児教育やサービス業といった低収入の業種に就く傾向があるからで、まだその性差を打開する試みは続けられています。

 さらにフィンランドの歴史をふりかえると、女性たちが「何かを得るためには何かを差し出す」交渉術を使って「男女平等」を勝ち取ってきたプロセスが見えてきます。

(c) City of Helsinki
(c) City of Helsinki

 フィンランドが女性の社会的な地位を改善し始めたのは1958年のこと。当時のフィンランドの女性たちは男性たちも「外で働くだけ」という伝統的な性的役割を押しつけられていることに着目し、男性たちを長時間労働から解放し、育児参加する機会を提供して、自らも外で働く権利を手に入れました。

 1906年に世界で初めて男性と同時に女性も普通選挙権を手に入れると、フィンランドでは早速女性が女性に投票してぐんぐん女性の議席を増やしていきました。

 男女平等の実現のためには、不平等を裏づける多くの数字やデータを取ることが重要です。フィンランド商工会議所やシンクタンクEVA(Finnish Business and Policy Forum)が様々な統計、調査、分析を公開しています。

割り切れない数式

(c) Helsinki Marketing
(c) Helsinki Marketing

 「誰のおかげで食わせてもらっているんだ!」と怒鳴られたくなくて、共働きを目指していた私でしたが、執筆業を目指して退職し、結婚したら出産し、あれよあれよという間に無防備にも、無職、乳飲み子連れでフィンランドに移住してきてしまいました。

 元夫が積極的に育児参加してくれたのはありがたかったのですが、家事と同じく、大まかな方針から細かいことまで決めて管理したがるそのスタイルはまるで「育児奉行」のよう。フィンランド人と結婚してこのような育児経験をした人は稀なようですが、「男女平等」という言葉の裏側には、男性の領域、女性の領域をそれぞれが浸食する可能性も秘めていることに気づかされました。

 例えば元夫は、授乳が済んだとたんに私の腕から長男をすくいあげ、げっぷをさせ、抱っこして寝かしつけをしてくれたのですが、私の腕でもすでに眠りかけていた長男が元夫の腕に移動すると起きて泣いてしまう。その泣き声にかき乱されて、子猫を奪われた母猫のように私はイライラしてしまいました。二人の子どもの育児を二人で平等に分担してやっている。これは本来素晴らしことのはずなのに、私に備わっていた母性が古すぎるのか、うまく対応できませんでした。人の心とは、数式に当てはめて割り切れるものではないようです。

(c) Harri Tarvainen/North Karelia
(c) Harri Tarvainen/North Karelia

 そんな「男女平等」に行き詰まりを感じていた時、元夫がこんなことをいいました。

 「フィンランドの男女平等は、男と女を足して2で割って均質にすることではない。女性は女性らしさ、男性は男性らしさというそれぞれの特徴を生かしながら、お互いが尊重しあうものなんだ」と。

 国を代表して個人がここまでで言い切ってしまっていいのかわかりませんが、なかなかの名言です。フィンランド人の幸せの秘訣である「個人主義」に通じるところもあります。

 性別の違うあなたも私もみんな平等でありたい。でも、お互いが無理をして自分らしさまで失う必要はない。You can´t have them all.――ここで重要なのは、それぞれの性別の「らしさ」と「役割」が、決めつけたり、押し付けられたものであってはならない、ということです。

従来の育児休暇制度の落ち度を補填するために、今年2021年からは妊婦に対する産休期間が1カ月と、子どもが2歳になるまで両親にそれぞれカ月の育休を認める「1+7+7モデル」と呼ばれる、より男女平等な休暇制度が始まります。

<b>靴家さちこ:(くつけ さちこ)</b>フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。  
靴家さちこ:(くつけ さちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。  
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