15.フィンランド人ってどんな人? (vol.2)

ノキアというフィンランド企業で働くことから、私はフィンランド文化になじみを持つようになりました。シャイで物静かで、日本人に似ているともいわれるフィンランド人の国民性とは真逆の、よくしゃべるフィンランド人=元夫にも出会い、国際結婚までしてしまいました。さらに2004年に子連れでフィンランドに移住してから、いよいよミステリアスなフィンランド人の謎に迫る日々が始まり、その探究は今も続いています。
靴家さちこ
2021.04.28
誰でも

Sinä(=You)は何しにフィンランドへ?

Visit Finland     ※筆者ではありません
Visit Finland     ※筆者ではありません

 まず忘れられないのは、社内恋愛だった元夫と結婚することを知らせた時の経理のフィンランド人女性の反応です。やや高齢の管理職の人だったのですが、「フィンランド人は、ぶっきらぼうで口は悪いけど、正直で心は温かいから!」と早口で祝辞のようなものを述べてくれました。

 元夫の姉も、フィンランドに移って来て再会するや否や「ああ!日本に家族も友達も置いて、ついに来てしまったのね!」と、まるで私が取り返しのつかないことをしてしまったかのような口ぶり。

 やがて移住当初は7カ月だった長男が大きくなってきたので「フィンランド語で『ママ』ってなんていうの?」と聞いたら「Äiti(アイティ)よ。ああ、フィンランド語って、こんな醜い音で申し訳ない!」と謝罪されるなど。もう少し自分の国に誇りを持とうよ、とこちらが慌ててしまうほどの低姿勢ぶりでした。

 お義姉さんのあまりの謙虚さにうろたえる私にトドメを指したのは、移住してから知り合ったフィンランド人が口々に「なんでフィンランドに来たの?」と聞く時の口調。もちろん「何がきっかけで来たの?」という純粋な質問もあるのですが、かなりの割合で「てか、なんで来ちゃったの?」とでもいうような、モノ好きをたしなめるような口調なのです。

 心配そうにしてくれる理由の大半は、鬼のように文法が難しいフィンランド語と、(特に外国人に)打ち解けにくいフィンランド人の気質、そして「一年の半分は暗闇」と評される過酷な気候だったのでした。

Toni Panula / Visit Finland 色があるうちはまだいい。やがて葉が落ち、長いモノクロの冬がやってくる
Toni Panula / Visit Finland 色があるうちはまだいい。やがて葉が落ち、長いモノクロの冬がやってくる

自虐ギャグに癒される

 ヘルシンキ=ヴァンター空港を利用されたことがある方は、あの「Welcome to HEL!」というキャッチコピーを二度見したことがありませんか?ちょっと考えればHELはヘルシンキの略だとわかるものの、「え?地獄(Hell)へようこそ?!」ってドキッとしませでしたか? 

Finnair公式Twitter: https://twitter.com/Finnair/status/1096420177690980352?s=20 一体どうしたヘルシンキ
Finnair公式Twitter: https://twitter.com/Finnair/status/1096420177690980352?s=20 一体どうしたヘルシンキ

 移住したばかりの私に元夫は「先にいっておくが、ここには何もない」と断言し、3月の雪解けのどろんこ道を歩きながら「見ろ、なんて美しい国なんだ!」と小さく叫び、街中を歩く体の大きな人達に一瞥をくれると「ビューティフル!この国はアイスクリームの個人消費が世界屈指で、肥満率がアメリカに次いで世界で二番目に高いんだ」とこぼしました。

 やがて「フィンランド人の癒しは、誰もいない森の中を歩き回ること」だと、「フィンランド人の夢は、誰にもじゃまされないサマーコテージに引きこもること」だとも教わりました。

 さらに元夫に言わせれば「エレベーターに乗ったら上を向いて数字を見つめるのがフィンランド式処世術」なのだそうで、「あの口を開かずにしゃべるF1レーサーはフィンランド人だ」といわれてのぞきこんだテレビ画面には、ボソボソと無表情でインタビューに応じるキミ・ライッコネンが映っていました。

 フィンランド・ジョークのほとんどは気候に関するものですが、一番インパクトがあったのは、日本のお客様のためにフィンランド某所に視察訪問の予約を取ろうとした時のことです。なんと「クリスマス明け1月の私たちフィンランド人はまだ冬眠してますからねぇ……」と笑いながら断られてしまいました。一瞬「ムーミンかよ」とツッコみそうになった言葉をぐっと飲みこみ、2月末で何とか手を打ちました。

Julia Kivela / Visit Finland 穏やかでもしっかり主張。東のはずれでも欧州のフィンランド
Julia Kivela / Visit Finland 穏やかでもしっかり主張。東のはずれでも欧州のフィンランド

フィンランド人の仕事文化

 昨年から自閉症障害者ホームという、100%フィンランド語の職場で働くようになり、私のフィンランド人観もアップデートされました。シャイで大人しく、外国人に打ち解けにくいフィンランド人の気質には覚悟していましたが、やはり職場でスモールトークをリードし、会議でも活発に意見を出し、真っ先に感情をあらわにするのはエストニア人です。

 かといって口下手で根が正直といわれるフィンランド人も、さすがにバカ正直というわけでもない。「私の仕事ぶりどうですか?」と聞けば「あら、いいんじゃない?」と社交辞令もいいますし、私が自分のミスだと思って正直に謝ると、「それはあなただけのせいじゃない」とかばってくれたりもします。シス(Sisu)という、日本語の「根性」に相当する言葉もあるので、難しい局面でも真摯に向き合う人の仕事ぶりは誰もが高く評価します。

 ただ同僚や上司の悪口も結構言うので油断はできません。ハラハラして見守っていると、言いたいことは、このまま胸にためておくと良くないというタイミングで口から発射するらしく、その沸点は日本人より低く設定されています。中には短気でキレやすい人もいます。

 私が勤続半年過ぎたある日、会議で以前から良くないと思っていたことについて問題提起したところ、その翌日から同僚たちからの仲間意識が急上昇 しました。ようやく受け入れられたという感じ。でも自分から話しかけていかないと輪の中には入って行けないし、黙っているとそれで良いと思われてしまい、ハッキリいわない方が悪いとジャッジされることもあり、いろいろ独特とはいえ、フィンランドはやはり欧州の国だと感じます。

 日本の「察する」文化出身の私としては、二倍も三倍も努力をして主張していかないと存在感さえ消される勢い。さらに広げると、日本人にありがちな「察してくれない」「言わなきゃわからない」といった不満は正当化されない国だともいえます。

Elina Sirparanta / Visit FInland  ポジティブ、ポジティブ
Elina Sirparanta / Visit FInland  ポジティブ、ポジティブ

「国宝級」に支えられて生きる。

  職場でフィンランド人と外国人(って、私も外国人なのですが)にもまれ「私って、やっぱり日本人なんだなー」と物思いに沈む時。救いの神が訪れます。

 例えば先日久しぶりに会ったフィンランド人のママ友は、玄関先で冷たいみぞれに濡れた眼鏡を拭きながら、「最高のお天気ね。実にフィンランドの春らしい」というご挨拶。コロナ禍でかなり定着してきたマスクのことも「どうせつけてたって外してたってフィンランド人には表情が無いから同じよ」と自虐ギャグが止まらない。

 その一方で、先日久しぶりに会ったフィンランド人のビジネスパートナーは「きゃ〜サチコ、久しぶり!! 」と玄関に入るなり満面の笑みで両手を広げたと思ったら、「あらヤダ、今はコロナだからハグできないわねぇ!もぉ調子狂っちゃう!!」と慌てて引っ込めて本当に切なそう。彼女はフィンランド人にしては珍しく大のハグ好きなのです。

 そんな国宝級にレアで明るい彼女を見つめながら、逆にハグしなくて済んでちょっとホッとしてしまった私は、17年暮らすうちにフィンランド人化してしまったのでしょうか、単にいつまでも日本人のままなのでしょうか。私は今日もこの似て非なる異文化の国で、シュールな混沌を味わい噛みしめて生きているのです。ポジティブ、ポジティブ♪

靴家さちこ:(くつけ さちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。
靴家さちこ:(くつけ さちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。

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