14.フィンランド人ってどんな人? (vol.1)
コロナに強いライフスタイル
実のところ、去年からコロナがフィンランド人のライフスタイルにどれだけの変化を与えたのかというと、表面的には大きな変化はなさそうに見えます。例えば、ソーシャルディスタンス。コロナ禍前でも、バス停に並ぶフィンランド人の人と人との間隔の広いこと。普通に1、2メートルはあります。
なんとしてでも見知らぬ人とのスモールトークを避けたい。日常生活でもハグをしないフィンランド人は(特に男性に)多いです。その場にいるみんながハグしても、ぐにゃぐにゃして身をかわしたり、無理やりされると棒のように硬直してしまう、「この人本当に欧米人?」と疑いたくなるような人が。
VeryFinnishProblems @SoVeryFinnish https://twitter.com/SoVeryFinnish/status/1233824276618391552?s=20
衝撃の初フィンランド人
私がフィンランド人を初めて見たのは、17歳の時。アメリカのノースダコタ州に交換留学していた1991年にさかのぼります。同じ国際交流団体を通して、欧州各国の留学生とも知り合う機会があり、フィンランド人も数名いました。一人目の女の子は、物静かで涼し気な印象でしたが、彼女のホストマザーが「うちに来る親戚やお客さんに辛辣な皮肉をいう」と愚痴をこぼしていたので、驚きました。
次に知り合ったフィンランド人の女の子は、その場に居たスイス人の女の子に自己紹介したところ、あまり良い反応がなかったことに気分を害し「私がフィンランド人だからなのね!!」と泣き出しました。あまりのことに呆然としていると、彼女と友達だという日本人の留学生が「彼女、とても繊細なの。まるで日本人みたいなのよ。私たちはとても気が合うの」と説明してくれたのにも驚きました。
当時の私は、まさに異文化を味わいにアメリカまで来ていたので、日本人に似ている欧州人には興味が持てませんでした。しかし、思いがけず約10年後に、私はそのあまり興味が持てなかったフィンランド人の会社に、勤めることになりました。
日本人に似ているらしい
Emilia Hoisko Photography / Visit Finland 意外とサウナだけでなく、オフロスキーでもあるフィンランド人
就職氷河期で、一社目に日本企業、二社目に米国企業に勤めた私は、三社目は欧州の、できれば当時住みたかったドイツの企業を狙っていました。大雑把な性格の私は、フィンランドがドイツに近いからという理由で、派遣会社に勧められたノキアの日本支社にも応募しました。
外国人率70%というオフィスの中で見たフィンランド人達は、それほど背が高いわけではなく(※1:男性の平均身長178.9㎝、女性の平均身長165.3㎝)、人口の20パーセントは肥満で(※2)、北欧人のイメージとしてよくいわれるまぶしいぐらいのブロンドヘアはごく少数でした。
男女ともに眼鏡使用者が多く、おしゃれなフレームでこだわりを表している模様。顔立ちは、中央ヨーロッパ諸国の顔と比べると凹凸のない、一重まぶたのようにあっさりした目の人もいて、やはり日本人ぽい?ムーミンみたい?ロシアのエリツィン元大統領みたいな顔も混じる、親近感が持てそうな面々でした。
Elina Sirparanta アレ?なんか話しやすい。。。
国民性らしきものを探ってみても、技術職の人が多かったからというのもありますが、全体的に物静かな印象で、会議中も目立って個性を発揮する人はあまりいません。最後に「質問は……?」と聞かれても「シーン」と水を打ったように静まりかえる様子も、日本的。米国からの出張者が、一人でワンマンステージばりの談笑を繰り広げていても、誰一人として遮らず譲ってしまうようなところも、日本人並みの大人しさです。
こんなに我慢して大丈夫かなぁ?と思ったら案の定、お酒の飲み方がハンパではない。当時のノキア・ジャパンのオフィス周辺の居酒屋では、ハッピーアワー時のノキアの外国人社員の入店は出入り禁止で、席の予約を取るのが一苦労でした。それにしてもビール一杯でふっと抜ける肩の力。聞いたことが無い声がすると思ってふり向いたら、勤務時間中に口を開いているのさえ見たことが無いフィンランド人が饒舌にしゃべっているミラクル。
当時オフィスに内設されていたサウナ入浴も済ませ、サルミアッキコッスという黒いドロドロのウォッカリキュールを流し込む頃には、誰でも彼でもあなたが大好き!大親友!といわんばかりの大騒ぎ。しかし、そこまで打ち解けたはずなのに、翌朝出社してくると、バツ悪そうに小さく挨拶だけをして、何事もなかったかのように一日を始める様子まで、実に実に日本的なのでした。
Visit Finland スポーツ競技のように盛り上がる談笑
シャイで物静かではない例外たち
一般的に「シャイで物静か」と評されるフィンランド人ですが、何事にも例外はつきもの。早速ですが、私の研修担当者のフィンランド人女性はかなりインパクトが強い人でした。日本に出張して来るなり開口一番が「日本人はフィンランドといえばムーミンって思うかもしれないけど、今フィンランドで一番アツいのはクマのプーさんよ!」という挨拶でしたから。
当時の私の上司は朝から下ネタをカッ飛ばすフィンランド人男性でしたが、彼が「ねぇ君、男はサイズとテクニック、どっちが大事かなぁ?」と私の研修中に邪魔しに来た時も、間髪入れずに「どっちもよ!」といってあっさり駆逐してしまいました。私が「ああいうの、フィンランドではセクハラにならないの?」と聞くと、彼女は「ああ。彼はそういう人だから」と鼻で笑うだけでした。
勤め続けるにつけ、フィンランドの秋、特に暗い11月は国際電話で話すフィンランド人の声が激しくトーンダウンする季節と知るようになった頃、上司の上司のフィンランド人秘書の声だけが妙に明るいことに気がつきました。「モイ!サシコ!」と元気な挨拶に続き、小話、談笑、爆笑と電話越しに伝わるソーラーパワー。私が所属する部署全体が「なんか本社の人に電話すると、みんな暗くて機嫌が悪いね」と戦々恐々する中、彼女だけは国宝級に明るいと好評でした。
一方、当時社内恋愛でつき合い始めた元夫もシャイで物静かなフィンランド人の枠におさまらない雄弁な人だったので、そのフィンランド人秘書とも仲が良いのかなと思って、聞いてみたら「アイツかぁ……」と苦々しい表情。ほどなくして出張中に、彼女に元夫の評価をそれとなく聞いてみたところ「あの人ねぇ……」とこれまた苦虫をかみつぶしたような表情だったのには笑いました。
目立つ者同士がお互いを目障りに感じる現象は、フィンランドでもよくあることらしいです。このカブトムシとクワガタの対決のようなものを目の当たりに、私はますますフィンランド人というこの不思議な人達から目が離せなくなってきていました。
To be continued...
(次号の配信は4月28日水曜日です)
(※1) 出典:2021年版国別平均身長
(※2) 出典:2017年のYLEニュース記事「自分の体重に満足しているフィンランド人は20%以下」
靴家さちこ:(くつけさちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。
すでに登録済みの方は こちら