6. サンタクロースの故郷

フィンランドが「サンタクロースの故郷」でもあることをご存じですか?サンタクロースは北部のコルヴァトゥントゥリという山に住んでいます。「コルヴァ=耳」「トゥントゥリ=山」という名の通り、そこからサンタクロースが耳をすませて子どもたちの行いをチェックしています。それだけでも十分注意せよ!という感じなのですが、サンタさんのお手伝いの小人、トンットゥたちも偵察に走り回っているので油断は禁物です。
靴家さちこ 2020.12.09
誰でも
Visit Finland:国営放送でもサンタクロースがプレゼントを届けに出発する様子が報じられます。

Visit Finland:国営放送でもサンタクロースがプレゼントを届けに出発する様子が報じられます。

秋からお手紙を書いて心待ちに

 サンタクロースは国によって北極圏やグリーンランドに住んでいるともいわれていますが、フィンランド人は自分の国のサンタクロースを信じています。子どもたちは晩秋のサンタさんにお手紙を書く季節に入れば、いかに自分がこの一年良い子だったかのアピールと、欲しいプレゼントの思いつく限りを書きしたためます。小学校1年生ぐらいまでだと12月から急にいい子が増えてきて、悪ふざけをする同級生に「おい!クリスマス前だぞ」「トンットゥが見てる!」と警告するなど、可愛らしい光景もみられます。

 サンタクロースがクリスマスイブにトナカイのひくそりに乗ってプレゼントを配りに行く姿は、フィンランド国営放送のニュースでも報じられます。子どもたちはテレビの画面を食い入るように見つめ、この世界中の子どもたちにプレゼントを届ける奇跡の人を誇らしく、尊敬のまなざしで見守ります。ここ数年、首都圏があるフィンランド南部では雪が降らないブラッククリスマスの年もあるので、そんな時にはどうやってそりで来るのか、心配する子もいます。大人たちも、雪明りのない漆黒のクリスマスに大きなダメージを受けながらも、「サンタさんのそりには魔法があるから大丈夫」と子どもたちを励まします。

Photo: Kari Palsila / Visit Finland:サンタさんを手伝うトンットゥ達

Photo: Kari Palsila / Visit Finland:サンタさんを手伝うトンットゥ達

白昼堂々ではなく、「闇中堂々」現れる?

 フィンランドのサンタさんは、煙突の中からこっそり入ってくるのではなく、クリスマスイブの24日に白昼堂々玄関口に現れ、子どもたちに直接プレゼントを渡します。急いでいる時には、子どもたちがクリスマスサウナに入っている間にクリスマスツリーの下にプレゼントを置いて次の家に行きます。白昼といっても、クリスマスは日照時間が最も短い冬至とほぼ重なるので、何時に来ても暗闇です。玄関のドアがピンポン鳴るまで、家の中がちゃんと片付いていなければならない親の身としても、油断できないイベントです。

 プレゼントは親や親せきから合わせて10個近くものプレゼントを、大きな袋の中にこっそり集めておいて、サンタさんに手渡しておきます。ただでさえ年末で忙しいのに、子ども達のために、大の大人が何人もこそこそ走り回って実現するクリスマスマジックは、ふと我に返ると笑えます。サンタさんは、子ども達のパパや親戚のおじさんの変装だったり、ボランティアであったり、スーパーのお知らせボードに広告を出して雇われるセミプロであったり、いろいろです。我が家には義姉の友人がサンタクロースに、その息子さんがトントゥに完璧な変装をしてきてくれていました。

ヨウルプッキ(フィンランド語でサンタクロース)とトンットゥの前で硬直する長男

ヨウルプッキ(フィンランド語でサンタクロース)とトンットゥの前で硬直する長男

 待ちに待ったクリスマスイブの日は、子どもがまだ小さいうちは夫婦のうちどちらかの実家に呼ばれて、親戚一同が集まり、盛大に祝います。うちは私たちの移住後元夫の両親が次々と亡くなり、完全なる核家族だったので、サンタクロースの訪問はとても大きなイベントでした。当時まだ5歳だった長男が、背筋を伸ばして握手したサンタクロース。生後10カ月だった次男もただならぬ気配を感じ取ったのか、抱っこで私の腕の中にいたのに、両足で私の脇腹をぐいぐい絞めてきました。

怪しい人から目が離せない次男

怪しい人から目が離せない次男

本物のサンタクロースに会いに

 ちなみにコルヴァトゥントゥリがあるロヴァニエミには「サンタクロース村」というテーマパークがあり、サンタクロースはその施設内にあるサンタクロースオフィスにも通ってきます。個人的には、サンタさんにはオフィスに通勤などしないで、仙人のように家に籠っていて欲しい気がするのですが、サンタさんはそこで世界中から会いに来る訪問客と談笑したり、お手紙の返事を書いたり、プレゼントのリストに目を通したりするという仕事があるので、仕方ないですよね。

 サンタクロース村は、生粋のフィンランド人にとっては外国人のアトラクションという位置づけなので、わざわざ行くような場所では無いのですが、長男が小学4年生、次男が6歳の時の秋休みに、私が夜行列車でロヴァニエミに行こうと提案し、家族で行きました。サンタさんは日本語でも私たちと話してくれ、マルチリンガルで立派なひげをたくわえた温かいお爺さんでした。最初は「あんな観光地になんで」と渋々だった元夫が、サンタさんと会った直後に「フィンランドが誇るべき素晴らしいサンタクロースだ!」といって子ども達よりはしゃいでいたのには笑いました。

Photo: Riku Pihlanto/Visit Finland サンタクロース村で会えるフィンランドのサンタさん

Photo: Riku Pihlanto/Visit Finland サンタクロース村で会えるフィンランドのサンタさん

追究されない正体

 それにしても、当時は目をパチクリするだけで反応が薄かった次男が、その後何年も、もしかしたら小学6年生になった今でもサンタクロースを信じているのはどうしたものか。彼が小学4年生の時に、学校で「本当はサンタクロースなんていない」という友達と口論になったり、「まだ信じているの?」とバカにする子はいないか聞いたのですが「もう大きいから、学校でサンタクロースの話はしないんだよ。かっこ悪いからね」といわれてしまいました。

 学校でも誰も教えてくれないサンタクロースの正体。私は恐る恐る去年も聞きました。「さ、サンタクロースって本当にいるのかしらね?」と。そしたら次男が、今さら何いってるの?という表情で見つめ返していうのです。「だってママ、僕たち会ったじゃない」――というわけで、今年もやりました。次男が学校に行っている間に、こっそりプレゼントを買って、包装紙とリボンを買って、家の中で10個近くのプレゼントを包む作業を。バレないようにいつもと違う筆跡で「次男へ」と書いたシールも貼って。小さな声でいいますよ。サンタクロースの正体はね、愛ですよ、愛。

Rovaniemi and Visit Finland:ロヴァニエミのサンタクロース村

Rovaniemi and Visit Finland:ロヴァニエミのサンタクロース村

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<b>靴家さちこ:(くつけ さちこ)</b>フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。  

靴家さちこ:(くつけ さちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。  

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