17. 季節のスイーツが怖い訳(vol.2)
イースターもスイーツ
マンミは、ほのかな酸味と独特のすっぱいにおいが特徴で甘みは控えめです。クリームと砂糖、バニラクリームなどもかけて食べるので、クリーム党の私としては歓迎したいところですが、微妙です。どろどろとした食感やにおいが苦手だというフィンランド人も多く、賛否両論、意見が分かれるスイーツです。私も特に積極的に食べたいとは思わっていなかったのですが、ここ数年出回るようになったコーヒー味のマンミを食べたらとても美味しかったので、全く油断できないなと思いました。
Linda Eronen / Visit FInland どろどろのマンミはまるでとけかけの雪の中から表れた春の土
マンミと並んで良く食べられるのが「パシャ」というスイーツ。フィンランド語で「ラハカ」と呼ばれるヨーグルトが硬くなったような甘酸っぱいフレッシュチーズをベースに、オレンジの皮やレーズンを細かく刻んだもので春らしい風味に仕上げたもので、これも差し出されれば抵抗なく食べてしまいます。幸い、我が家では息子たちが二人ともマンミ嫌いで、次男などパシャも嫌いなので、買いすぎや食べすぎの心配はありませんが。
イースターエッグを侮るな
イースターにはキリスト様以外にもチョコレートが復活するという落とし穴があります。あのクリスマスの時のチョコレートの特設売り場が丸ごと、卵をあしらった色とりどりのチョコレートで埋め尽くされる様はさすがキリスト教国。それでもまだ、おもちゃが入ったイースターエッグの陳列棚ならば「フッ、そんな子ども騙し、買わなくってよ」と鼻で笑って歩き去る余裕があります。
カリカリがやめられない止まらない、スクラー・ラエ
が、毎年どうしても買ってしまうものがあります。それは小さなうずらの卵状の、まるで本物の卵の殻のような硬い砂糖の殻にミルクチョコレートが詰まっている「スクラー・ラエ」というチョコレート菓子で、カリカリという歯ごたえと頭のてっぺんまで感じる甘みに私も息子たちも抗えないという、それはそれは罪深いお菓子です。
ファッツェルを侮るな
それ以外にもフィンランドを代表するチョコレートの「カール・ファッツェル」シリーズにイースター限定でレモンメレンゲヨーグルト風味というのが市場に出回るのですが、これも見つけ次第買い物かごに放り込んでしまいます。一度ならず二度、もしくは三度までも。このシリーズには2021年4月下旬からマンゴーヨーグルトのフレーバーも仲間入りしました。こちらももう、無視することはできません。嗚呼……。
目をそらすことができないカール・ファッツェルのレモンメレンゲ&ヨーグルトとマンゴーヨーグルト ©Fazer
ファッツェルのイースター限定といえば、本物の卵の殻の中にどっしりヘーゼルナッツのヌガーを練りこんだチョコレートが入っている「ミグノン」という卵型チョコレートもあります。本物の卵の殻に穴を開けて中身を抜き、中身はファッツェルの他の焼き菓子の原料に使われるので心配ご無用です。殻も丁寧に洗浄しているので、衛生面でも安心です。チョコレートをたっぷり詰めて、穴は白いお砂糖で塞いだ完璧な卵。初めて見る子ども達はあっと驚き、テーブルがにぎわいます。こちらはなかなかヘビーなチョコレートなので、胃の弱い私は一つ丸ごと食べきれたことがありません。
まるで本物!本当に殻をむいて食べるチョコレート卵、ミグノン ©Fazer
メーデーもぬかりなくやれ
北欧は5月1日のメーデーを祝日とし、前夜(イブ)から宴が始まりますが、フィンランドも例外なく春の訪れと供にこのイベントを祝います。この、フィンランド語では「ヴァップ」と呼ばれるメーデーにもスイーツは欠かせません。フィンランドでは、レモンときび砂糖やイースト菌にレーズンで作られた甘い微炭飲料「シマ」を1~2週間前から仕込み、「ムンッキ」と呼ばれるドーナツと「脳みそみたいな形」のカリカリの揚げドーナツ「ティッパレイパ」がテーブルに並びます。
Photo Päivi Niemi / ムンッキとシマ
ドーナツは自家製で揚げたてを食べる家庭も多く、スーパーでは植物性の油脂がよく売れます。ドーナツの生地には、カルダモンが練りこまれており、じゅわっと口の中で広がる香ばしい油と清涼感が春を宣言します。丸くて小さな「ナミムンッキ」というドーナツもあるのですが、これは卵のやさしい風味でふわふわで、パクパクどんどん食べてしまう危険な食べ物です。
5月はその後、第二日曜日に母の日も祝いますが、その際には生クリームのデコレーションケーキを食べます。メーデーのドーナツの食べ過ぎを反省する暇もなく!
Visit Finland / ぐにゃぐにゃ脳みそみたいなのにカリカリに硬いティッパレイパ
アイスクリームを食べて食べて食べ続ける夏
6月上旬から学校が夏休みに入るフィンランドでは、6月は「夏の月」と呼ばれ、6月末の夏至に日照時間も最長となり、一足お先に夏のピークを迎えます。日本では露出の高い服や水着を着る機会に向けて人々がダイエットを意識しているそんな頃、フィンランドでは怒涛のようにアイスクリームを食べています。まるで1年土の中に眠っていたセミが1週間泣き続けるような勢いで。「今食べなきゃいつ食べるの?」ぐらいの熱狂に包まれて。
Photo / Ann-Britt Pada 短い夏のあいだにしみじみと味わうアイスクリーム
この季節にはスーパーマーケットからは、日用品の買い物をすませた家族が手に手に棒アイスやアイスクリームコーンを携えて出てくる様子も見ますし、湖畔やビーチでも休まずアイスクリームを食べます。おうちのベランダや庭でもアイスクリーム。BBQの後にもアイスクリーム。アイスクリームは米国や日本でおなじみのバケツ型より四角い箱型が定着しており、牛乳パックを広げるみたいに箱を開けて包丁で豪快に切り分けて食べます。
アイスクリームコーン6個入りの箱を冷凍庫に常備する家庭もあり、フレーバーの種類はバニラにストロベリー、ミックスベリーに洋ナシ、チョコレートにキャラメルと数えきれないほどです。日本ではあまりなじみがなない黒いグミキャンディ―のラクリッツのフレーバーもあれば、「世界一不味い」黒い飴といわれているサルミアッキのフレーバーもあり、それらの灰色のアイスクリームはフィンラド人の間ではとても人気があります。が、私は遠慮しておきます。
四角い箱にぎっしりつまったアイスクリーム。白いのが安全です ©PINGVIINI
……To be continued.
靴家さちこ:(くつけ さちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。
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