18. 季節のスイーツが怖い訳(vol.3)
Photo: Krista Keltanen / Visit Finland 濃紺のブルーベリーパイにたっぷりバニラソースをかけて食べれば職場復帰も怖くない!
そんなに怖くないハロウィーン
秋といえば10月の末にはハロウィーンがありますが、フィンランドは本場アメリカほど盛りあがりません。「トリックオアトリート!」と近所の家を訪問してお菓子をねだる子どもも珍しく、保育園で仮装したり、学校でハロウィーンディスコを開いて、同時にバザーで修学旅行の軍資金を稼ぐぐらいです。そのため10月末にさっと変装グッズが店頭に並び、束の間、オレンジ色や紫色の魔法使いっぽいテーマのお菓子やおどろおどろしい色合いのグミキャンディでにぎわうのですが、そんな子ども騙しに大人の私は引っ掛かりません。
Sグループのお客様向けの情報誌 "Yhteishyvä" より https://yhteishyva.fi/ruoka-ja-reseptit/hokkaido-myski-spagetti-tutustu-maukkaisiin-kurpit/3kIhYJhwBHdqmaHBV6VCCy Photo: PANU PÄLVIÄ, SOK
むしろ危険なのは、この季節に青果売り場に並ぶカボチャです。十数年前からHokkaidoという日本の甘くて美味しい種類が出回るようになったので、子ども達のためにジャックランタンを作るように見せかけて、本命のかぼちゃプリンや甘辛い煮つけを作るのが、フィンランド在住邦人の秋の楽しみです。ああ、なんて危険なのでしょう。フィンランドでは11月に「父の日」があって、その日もケーキを食べなければならないというのに。
ケーキが無くても怖いクリスマス
ケーキといえば、フィンランドではクリスマスにはケーキを食べません。クリスマスケーキ文化に慣れ親しんできた身としては、あの木の切り株を模したブッシュドノエルをどうしても食べてみたい気がするのですが、テーブルの上目一杯にならぶご馳走を食べた上に、ケーキまで食べきってしまったらもう完全にカロリーオーバーです。
白い粉砂糖をふりかけて、雪のお化粧をしてからいただくヨウルトルットゥ。Photo: Jussi Hellstén / Visit Finland
ケーキはありませんが、クリスマスのスイーツならあります。代表的なものには、星型の「ヨウルトルットゥ」というパイがあります。パイ生地を風車のように成形した中央にプラムのジャムを丸くのせて、サクサクに焼き上げたところに粉砂糖をふりかけただけ、というシンプルな食べ物ですが、焼きたてのパイを目の前にすると、もうブレーキが効きません。一つだけといわず、気がついたら二つ目も食べています。
フィンランドは他の北欧やヨーロッパの国と違い、クッキーを何種類も焼く伝統が無く、ジンジャーブレッド一択です。そこはまだ安心できますが、ジンジャーブレッドの香りとクリスマスの結びつきはとても強いので、適当にすませることはできません。家のオーブンでクッキーを焼かないと、家の中にクリスマスの香りがしないのです。そこで冷凍の生地を買ってくるか自分でこねて焼きます。子ども達はクッキーを成形しながら、必ず生地のつまみ食いもします。焼きあがったクッキーにアイシングで飾りつけもするのですが、これが甘い。こめかみを打ち破る甘さなので私は控えめにつけます。
左:「生地を全部食べるな!」と制しながら家で焼くジンジャーブレッド Photo: Virpi Mikkonen / Visit Finland右:ふちしか飾りたくない人 VS とことん塗りつぶそうとする人 Photo: Jussi Hellstén / Visit Finland
パーティーの主役は甘いお米のお粥
これらのスイーツとセットでふるまわれるのが「グロギ」と呼ばれる、ベリージュースがベースのホットワインです。赤ワインやラムやウォッカを入れてアルコール入りで飲むこともありますが、スイーツと一緒に昼間にふるまわれるときはたいていノンアルコールです。
クリスマスのご馳走のデザートに登場するのが、「リーシプーロ」というお米のミルク粥です。お鍋いっぱいに作ってアーモンドを忍ばせておき、食べているうちに見つけた人には幸運が訪れるといういい伝えがある、パーティーの主役的存在です。
Photo: Tiina Tahvanainen / Visit Finland シナモン・シュガーをたっぷりかけてスパイシーに。甘いお米のお粥は怖いですか?
リーシプーロには、プルーンの甘酸っぱいスープもかけてフルーティーな味わいにしたり、シナモンとお砂糖をふりかけてアクセントにします。このお粥に関しては、米食の国の人たちである日本人には苦手な人が多いのですが、私はあまり抵抗なくなじんでしまいました。外のクリスマスイベントなどでも、体も温まるありがたい食べ物です。
覚悟を決めるべし
ここまで読んで、「え、でもパイとクッキーとお粥だけでしょ?」と思ったあなたはまだ甘い!クリスマスといえばプレゼントを贈り合う季節だということを忘れてはいけません。チョコレートはひと家庭、最低でも重箱三段分ぐらいの量が来ます。これをせっせとクリスマス休暇が終わる年末年始ぐらいまでかけて食べきった頃に来年が始まるのです。そこに、すかさず店頭にルーネベリタルトが……お餅を食べる暇もありませんよ。
Photo: Laura Riihelä / Fazer クリスマスに各方面からいただく「ムダナテイコウハヤメロ」というメッセージ
さぁ、これでもうおわかりですね。フィンランドで「今年こそ痩せる」という新年の誓いを立てることがどれだけ無駄な抵抗かということが。スイーツ、めちゃくちゃ怖いんです!ところで、「怖いスイーツ」といえば、あの黒くて「世界一不味い」といわれるラスボス「サルミアッキ」がありますね。その話は、また別途お話させていただきます。皆さまどうぞ、お覚悟召されよ!
靴家さちこ:(くつけ さちこ)フィンランド在住ライター。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、ノキア・ジャパンを経て、2004年よりフィンランドへ移住。共著に『ニッポンの評判』『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。
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